高句麗いにしえの地を訪ねて(9)

中国が公開するただ一つの壁画古墳

1990年10月1日、早朝から博物館の職員を伴って集安の壁画古墳の中で唯一、一般人に公開している五墳の 五号墳を訪ねた。当時、筆者としては初めて接する高句麗の古墳壁画だったので、その感動は今でも生々しく残っている。 五墳の4号と5号、そして通溝四神墓はお互いにくっついており、墓の構造や壁画の内容がほとんど同じで、 同じ時期の6世紀初頭に築造されたものと見られている。

  天国の仙人達が楽器を奏でている。

この3つの墓は先に見た舞踊塚、角抵塚などとは大きな違いがある。初期の形態である舞踊塚などは、壁に灰を下塗りして、 ちょうど現代の画板のように白く綺麗な面に繊細に描いている一方、五墳などは岩の上に直接描いている点である。 石室は4.7坪(約15.6平米)で、10名余りが入って説明を聞くことが出来るほどなので、とても広い方だ。4つの壁は 高さが2.18mで、我々の背丈よりも高い。その上に梁があり、梁の上に天井を作り、一番上に 一塊りになった平たい締め切り天井石を被せた。石室の高さは3.94mだ。玄室の中には石の棺台が3基置いてあり、 中間にある大きな棺台は大きい石を綺麗にして一つになっているが、両側にある2つの棺台は 他の破片を付けて作ったもので、二人の夫人のもの見える。二人の夫人の棺台は二つの壁にぐっと付けて その隙間を石灰を塗って埋めている。


天井の黄龍の絵は皇帝の権威を表す。

燦爛たる4つの壁の四神図

4つの壁には巨大な四神図が描かれており、この四神図が壁画の主題をなしている。 東側の壁には飛び上がる青龍を描いた。龍の頭は南を向き、見下ろしながら飛び上がる格好をしている。 龍の体には黄色、緑、赤褐色を平行して塗り、上には黒で鱗を描き、首と腹は桃色を塗った。 4本の足は白いもので飾り、黒い線で輪郭を描き、足の爪は非常に鋭い。

この壁画には全部で39匹の龍が描かれているが、形態や彩色はほとんど同じである。西側の壁の白虎は南を向いている。 飛び掛るような至誠だが、虎の体は白く、黒い線で染み柄を描いてあり、腹は桃色になっている。後ろ足の後には羽根飾りが 付いている。  

南側の壁の中央には入口の門があり、東西両側に各々朱雀が一羽づつ描かれており、くちばしが細くて鋭い。 赤で炎の模様を描き、体は赤、尾の毛には黄色、緑、赤を混ぜて塗ってある。頭を向け合い、蓮の台座の上に立っており、 翼を広げて飛び立とうとしている。北側の壁には玄武で、亀と蛇がお互いに絡んで縛られている。亀は西側を向き、 頭を回して上に向けて下に突き出る蛇の頭を受け止めている。亀の胴体は赤褐色で、胴には模様がない。4本の足には いずれも指が3本づつあり、蛇の体は青龍と同じ色を塗ってある。


玄室右側の壁の白虎図


燦爛たる天国の世界を描いた2層の支石

2層からなる三角支石にはいろいろな神を含む天国世界を描いている。五墳の最も大きな特徴のうちの一つとして、 絵に込められた豊富な説和性を挙げる人もいる。玄室の天井を支えている四方の巨大な花崗岩の上に、 人類文化の画期的な進歩をもたらした神々の話が、卓越して造形化されているということだ。三角支石の1段目には、 太陽と月の神、製輪神と種を撒く天国の人、神農と火を起す神、天を分かつ仙人や神将などの絵が、三角支石の2段目には、 龍乗って琵琶、琴、笛、鼓などさまざまな楽器を演奏する天国の人々が描かれ、神と人を一つの次元で 並べ、まるでギリシア神話を彷彿とさせるかのようだ。一方、太陽と月、北斗七星と南斗六星、その他の星座など 高句麗の壁画に出る多様な星座は、当時の高句麗の天文学的関心と水準を知らせてくれる。 五墳の特徴は、まず四神図に求めることが出来るが、それよりも伝統的な神仙思想を土台として仏教、道教、 五行思想などいろいろな輸入思想や宗教を全て受け入れ、反映した多様性にあるといえる。

壁画の天敵、壁の湿気

 五墳は周囲に垣根を巡らして人々の出入りを禁止しており、墓の入り口にも鉄門を設けて鍵をかけ、 観光客がいる時のみ開けて見せてくれるなど、中国政府が管理に相当に気を使っている。しかし 観覧するたびに心を痛めたのは、壁が見ずに濡れて流れるほどだったことだ。まるで風呂の天井 のように水滴がついており、墓の内部全体が湿気というよりは水気に満ちている。

 岩の上に描いた絵が1500年余りも過ぎた今日まで色も鮮明に残っているところを見ると、 誠に神秘的に見える。しかしいくら耐水性の良いものを使ったとしても、水中に浸かっていたら、 長く持たないのは明らかである。石窟庵を保存するためにエアコンまで設置したが、そ 比べて歴史的価値が決してひけをとらない古墳が見ずに濡れているのを見るのは痛ましいことだ。 この墓の壁画にはもともと壁と天井の支石それぞれに金で出来た飾りを施し、 動物や鳥の絵は目玉を青い宝石で打ちこんだというのに、牛頭神の右目に嵌め込んだトルコ石を 除けば全て盗掘されており、ただ嵌め込んだ跡や飾りつけた跡だけが残っている。


2段目の三角支石には、天国が表現されている。

 

 


社団法人 高句麗研究会