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観光 会議室


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◆ 分科会B <豊かな資源を守り育てる観光づくり>
記事No/ 18 (記事No: 16への返信記事)
投稿者/ 風来坊
投稿日/ 2003年2月12日(水)00:27
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分科会B <豊かな資源を守り育てる観光づくり>

担当パネリスト 前田 弘 

○前田

私の所属する国際観光学科は去年できたばかりの関西で初の観光に関する学科であり、様々な観光関連学問を推進していますが、その開設の目的の一つに「地域の人たちと一緒に観光を考えていく」ことを掲げています。今から分科会でお話しするような内容は、到底今日中に解決するわけではないので、今後何かお役に立てることがあれば当大学には実践経験もあるスタッフが多数いるので、お気軽にご相談いただけたら我々のできる範囲でお答えしたい。それが国際観光学科の機能の一つ、使命の一つと考えております。

資源を守り育てるという視点からみれば観光は番の敵ではないか、という見方もあります。だからこそ、これからの観光とはその地域の資源を守っていける観光、育てていける観光、そういうものを考えることが前提になると思います。

「自然と共生する県づくり」と観光がどうクロスするかということですが、地域資源、観光資源の豊かさや大切さを知り理解するという新しい形の観光のあり方と結びつくのではないか、と思います。新しい観光という視点のもとで、地域資源の新たな使い方ができるというところに来ているわけです。

それでは、地域づくりの視点から見た地域資源、観光資源の保存と活用のあり方について考えてみましょう。たとえば長浜市の黒壁スクエアは、単に観光振興のみを志向したものではなく、自分の地域を見直して地域のよさを再認識していく住民活動が行われている例と言えます。地域の豊かさ、大切さを知る動きを観光の現場に引き上げていくこと、それが「豊かな資源を守り育てる観光づくり」になるだろうと考えています。

ここで、私の調査した熊本県の地域づくりの事例と比較しながら、滋賀県の観光づくりを見直してみましょう。滋賀県は琵琶湖という近畿1.400万人の人たちの水がめを持ち、熊本県は阿蘇周辺1.200平方キロメートルの草原に降った雨を伏流水として熊本市民の上水道機能を有している。

平成8年の熊本県全体の観光客数は4.200万人、これが何と平成9年の滋賀県の観光客総数も約4.200万人という偶然の一致ですね。水というものを介して滋賀県と熊本県の状況は似ていると思ったわけです。

ただし、生活は全然違います。滋賀県では過疎地が今のところ余呉町と朽木村の2町村であるのに比べ、熊本県は全市町村の57%、54市町村が過疎となっています。

熊本県はそういった危機的な状況にあります。そういうところで地域づくりをどうやっていくかと考え、農林畜産業が様々な産業構造の変化や、高齢化や少子化の影響を受けて衰退していったという事情があり、それを何とか活性化していくために、阿蘇の草原を観光資源とし、地域を活性化させるしか手がないのではないかということになったわけです。

そこでできたのが、「阿蘇グリーンストック運動」です。「グリーンストック」は日本語では「緑の資産」と言います。「資源」ではなく「資産」です。「資産」とはお金をもたらしてくれたり、豊かさ、感動をもたらしてくれる「財産」に近いものです。

そういう意味を込めてグリーンストック運動が90年代に入って本格化し、この2、3年前に県の認可を受けて財団法人の組織ができ上がったのです。この財団法人は阿蘇の12市町村をはじめ熊本市、熊本県、県内の各自治体、主要な地元の銀行等が出資し、これをセンターにして地域づくりをやろうと計画したものです。つまり地域環境を維持し、あるいは活性化していくためには一つの市町村では手に負えないわけです。阿蘇の恵みを受けている人々、企業、行政の連携によって農山村の活性化を図るために、この「阿蘇グリーンストック運動」が始まったわけです。

資料に「阿蘇ニューファームヴィレッジ計画」と書いてあります。これは観光そのものではなく、観光でよさを知った人に住んでもらうという、非常に広がりのある地域活性化活動です。

このグリーンストックの地域活性化活動は、単に物見遊山の観光ではなく、定住やIターン、Uターンを含めた広範囲の、観光でないものも観光の1つの流れに入れてしまうという大きな運動になっています。その原動力とは「自分たちがもう住めなくなってしまう」という危機感なのです。

資料2枚目に移ります。「由布院・親類クラブ」とあります。「由布院・親類クラブ」とは、一言で言えば農村と都市を結ぶネットワークをつくろうとする活動です。今まで由布院に来てもらったお客さんと太いパイプを結んで足しげく通ってもらう、要するにお客さんを確保する戦略ですが、「ムラ業としての観光業」の実践でもあります。

由布院の場合、観光地として有名になるにつれ、二十数年間も農畜産業者と観光業者は対立し、観光によって富んだ部分と農畜産業が廃れた部分とが非常にアンバランスになっていました。しかし、それでは町というものを維持できない、ということに気付いたわけです。そこで、町の住民全員で観光に参加してもらえる仕組みを模索しはじめたわけです。例えば農畜産業の産物を宿で使うシステムを作ったりして、地元の人たちが全員参加できる地域づくりを考えようとしているのです。

これは非常に特殊な事例かもしれませんが、「観光」を観光業と観光客だけに限らない広がりを持った「新しい観光」づくりと考える際には重要な事例です。

これらの事例を見ていくと「観光資源というのは何か」をもう一度見直した場合、それがどういう事情でできたかとか、どういう意味を持っているかということをきちんと説明する。歴史や時間の積み重なりということにもなると思いますが、そういう観光資源こそが人を引きつけるのではないか。つまり、「モノ(物)からコト(事)へ」「空間志向から時間志向へ」あるいは「生活者としての知識が集積したものが観光資源になる」という言葉で表現できます。つまり、生活者がよいと思うものが魅力ある観光資源を生み出すのではないか、と考えているわけです。

一方、観光客のほうも以前の「奇抜さやおどかしの観光」から「やすらぎやなつかしさの観光」を求めている人が着実にいて、徐々にではありますが増えています。空間から時間志向への移行…この場合、時間は見えないものですから、やはり体験しないとわからない。そこで体験型の観光というものが必要になってきます。つまり言いかえれば「時間の消費から体験へ」という観光を考えたらどうだろう、ということです。

このような、観光資源の新しい見方の上に立った観光とは、「連携型の観光」になっていくだろうと思います。それは例えば、農畜産業と観光業、あるいは製造業と観光業といった、今まで相入れなかった人たちが連携して知恵を出す。あるいは、独立した町や村の中で観光を考えるのではなく、隣接地や遠隔地同士が情報を共有しながら、観光地同士の連携の中で観光地の魅力を維持していく。観光地づくりのノウハウ情報もどんどん連携していくということです。

さて、私からの質問として「観光」とは皆さんの心の中でどれほどの位置を占めているのか、お話いただけたら、と思います。

○参加者(近江八幡観光ボランティアガイド協会)

近江八幡観光ボランティアガイド協会は、平成4年度から始まりましたが、一番大切なことは自分の住んでいる町を好きであること、そして自信を持って観光客の方、また地元の方に喜んでいただけるような町づくりを考えなければならない事だと思います。その視点でスタートし、今年で7年目を迎えることになりました。

ボランティアガイドが発足してから、町が美しくなったことも自慢の一つと言えるでしょう。1軒が美しくするから隣が美しくする。隣が美しくなれば、自分のところの汚さが恥ずかしくなるから、また美しくする、といういい意味での連鎖反応があったのです。またこの頃はお年寄りがぶらぶら散歩しながら缶拾いやごみ拾いをするといった点でも、大きく町が変わってきたと言えます。それも私の町の自慢です。

観光とはみんなが築くまちづくりである、と考えています。住んでよかった町、住みたくなる町。ガイドをする人だけが歴史を勉強するのではなく、町に暮らす皆さんに呼びかけた運動へと発展させていこうと考えています。

○前田

「皆でつくるまちづくり」という考えはわかりますが、そこに「観光」という要素は必要でしょうか。例えば、観光がなくても自分たちの町をよい町にすればよいではないかという言い方はもできるのではないでしょうか。

○参加者(続)

例えば家庭でも、お客さんが来るから水をまき、掃除をし、服装をきちんとし、心を新たにして迎えます。それと町の発展も同じだと思います。近江八幡の町の中もきれいにしてお客さんを迎えたい。.その気持ちから産業が発達しすべてが繁栄していく、と考えます。

○前田

なるほど。そういう意味では観光は町づくりの一つのキッカケとなるわけですね。ありがとうございました。

○参加者(山本・旅館経営)

黒壁スクエアができて新快速が長浜市まで入るようになり、一時は非常にお客さんが増えました。しかし、黒壁自体に店舗が増えてきて、黒壁だけで遊べるようになってきたために、周辺地域へのお客さんが減るという現象も起きています。長浜だけが1人走ってしまっている感じで、どうも周辺地域が置いてきぼりにされているという懸念がものすごくあります。長浜には人が来ている、ただその波及効果が周りに全然伝わってこないという感じを特に最近は持っています。

○前田

観光がその地にもたらす恩恵の強さが、周囲にとってゆがみをもたらす面がある、ということですね。周りに波及させるための何らかの方策は考えておられますか。

○参加者(続)

やはり長浜が頼りになってしまうのです。例えば行政でも、長浜市には商工観光課、地域振興課、産業課といったものがありますが、私たちの町にはそういう機関がありません。国の機関もそうです。例えば今日、中国が「わが国に来て下さい」という宣伝をしていますが、日本は諸外国にそういうアピールをする機関がないわけです。観光庁がなく、運輸省が担当しています。さらに、私たちの旅館になると管轄が厚生省になります。

世界の観光客の入り組みを見ていても、日本は世界でも40番目ぐらいです。出ていく人は多くても日本へ来る人は少ない。ウエルカムプラン21というものがありますが、あれも運輸省の一人相撲という感じがしないでもありません。

○前田

旅の情報が氾濫し、メディアで得た観光の情報をもとに自分でプランニングすることが当たり前になって、「観光資源を前に地元の人の話を聞く」という観光のあり方はほとんどありません。つまりここにガイドさんがいるから話を聞いてくださいというシステムは実践されていないと思います。ですから、そういう仕組みの観光がありますというPRが必要ですね。

私は、なぜこれだけ資源があるのに、観光のやり方は一通りなのだろうなと思っていたのですが、やはりそういう構造的な問題、仕組みの問題があるのかもしれません。

○参加者

私は今日はこの琵琶湖を元気に育てたい方のシンポジウムということで参加させていただいたのですが。

○前田

私は守り育てることと観光というものを1つにしたいと思います。これまでは守り育てるためには観光は要らないという印象が強かったと思います。けれど、観光とは単に「物」だけではなくて、米田さんがおっしゃるような「語り」の要素が必要です。

観光とは、一つの時間と場所を共有する中で、それを守り育てる気持ちの中で生まれてくると思います。実際には環境保全に関する技術的な問題はあり、それは専門的にやらないといけない部分ですけれども、私は観光を通じて守り育てることができると思います。そういう場所として観光資源を位置付けることが大切です。そこに人が来て、その人を迎える人がいて、一緒にこれを見てくれとか、すばらしいだろうという語らいの中に守り育てる気持ちができてくると思うのです。

○参加者

現在は黒壁周辺を中心に観光客が増加していますが、それを将来的にも持続させていくにはどういうような形で展開させていくべきか、それはこれから研究していかなければと思います。黒壁周辺に様々な店のパターンが出来たことによって、そこで過ごす時間を大きくとってしまうわけです。ですから、黒壁の繁栄を維持しつつ、少しでも広域的に広げるためには日帰りではなくて滞在型のほうに引っ張っていかなければと考えています。

○前田

それは本当に県全体で考えていかないといけない問題です。県の方にも一言ご意見をお聞かせいただきたいのですが。

○参加者(滋賀県)

今日は特にボランティアガイドの方がたくさんおみえになっており、県でも昨年、ボランティアガイドさんを支援させていただき、県全体の連絡組織というものが発足しました。

滋賀県の場合、やはり通過県であり、統計を見ていても京阪神の方が車で日帰りで来られるのが圧倒的に多いということがあげられます。今までは県が音頭を取っていましたが、やはり県が中心になるとどうしても県全体のレベルアップを考えねばならず、なかなか地域の特色をうまく活用できないという欠点があります。まずやはり地域の方がその地域に愛着を持つことによって、観光客にとっての魅力をつくっていく。そこを原点に新たに何かを展開していかないといけないのではないかというふうに思った次第です。

○前田

その上で、やはり1つの町や市や村ではどうも解決できないような広域的な広がりもありますから、その点では県のお仕事としていろいろなかかわり合いを持っていただけたらと思います。

それに滋賀県にとどまらないとなると、近畿運輸局の出番になってくるのではないでしょうか。

○参加者(近畿運輸局)

先ほどの山本さんの「運輸省、国が観光に力を入れるべきだ」というご意見はもっともなことだと思いました。確かに海外ではシンガポールなどから運輸大臣が来て、先日も関西の旅行代理店に「感謝の集い」であるとか、国を挙げての観光誘致を行っていました。

日本の観光状況は、海外からの来日が400万人で、海外へ出ていくのが1.600万人と数字が歴然としていますが、なかなか国の予算もつかないのです。

皆さんご存じだと思いますが、2001年には運輸省は国土交通省になるので、建設と一緒になった時には予算もつくのかなあと甘い期待を持っているところです。

滋賀県さんもゆくゆくはコンベンション都市になっていく道があると思います。先ほど徳島県の課長さんがおっしゃったように施設も含めて外国人も参加する国際的な大きい会議をどんどん取り込み、国内もさることながら世界に向けてアピールできる都市になってほしいと思っています。

○前田

では最後は国際ということで、アジア太平洋で締めくくっていただけますか。

○主催者(神沢・財団法人アジア太平洋観光交流センター部長)

私どもは今日は、大変皆様方ご熱心に地域の発展のために努力をなさっているということを聞かせていただいて、非常に勉強になりました。今後ともお手伝いをさせていただきたいと思っているのでよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。


以下は関連する記事の一覧です。 [一括表示]

[参考]パネルディスカッション(滋賀) - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:22 No: 16
......... ◆ 分科会A <「観光地づくり」とは「まちづり」> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:24 No: 17
.................. ◆ 分科会B <豊かな資源を守り育てる観光づくり> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:27 No: 18
........................... ◆ 分科会C <滋資県の集客力は強いのか弱いのか?> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:29 No: 19


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