◆ [参考]パネルディスカッション(滋賀) |
記事No/ |
16 (親記事) |
投稿者/ |
風来坊
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投稿日/ |
2003年2月12日(水)00:22 |
E-Mail/ |
未記入 |
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未記入 |
パネルディスカッション
コーディネーター 井戸庄三(滋賀医科大学 教授)
パネリスト 広野敏生(まちづくりプロデュサー・株式会社創造工房ダ・ピンチ代表取締役)
前田弘(阪南大学国際コミュニケーション学部 講師)
高崎邦子(JTB日本交通公社 関西営業本部 広報課長)
○井戸
今日は、「湖国の魅力をどうお伝えしていますか?」という、大変アトラクティブなキャッチフレーズをつくっていただき、観光専門の3人の先生方を県外からお迎えしております。湖国滋賀県の魅力を、客観的な視点で捉えていただき、新たな魅力の発見や、アピールの仕方などの勉強をさせていただこうと思っています。
○広野
私は医者として、内分泌内科で、環境によってホルモンがどう変化するかというようなことを研究していたのですが、やればやるほど、人間の体というのは随分周りの環境に影響されるということがわかってきました。
いろんな町に寄せさせていただくたびに、ついつい町の元気度を診察してしまいます。元気のない、さびれている町というのを診ていくと、どんな素晴らしい資産があっても、人は集まってきません。だから、今日私は、どうすれば町が元気になるのかという観点でまちづくりを見直す必要性をご理解いただきたいと思っています。
もう一つは、まちづくりにおける大都市志向あるいは画一化について言及したいと思います。観光の一つのキーワードは「違い」だと言えるでしょう。「違う」ということを明確に見せていくこと、「違い」に自信を持っていくことが観光というものの中で大切なことではないかと考えているのです。
○前田
私が文化人類学者として研究していた伝統社会というのは、もともと観光とは相入れないものです。ところが今、伝統社会というのはまさに観光資源そのものになり得るものでもあります。
私は熊本大学で研究をしていたことがあるのですが、熊本県には94市町村のうち54町村が過疎です。農林水産業が非常に衰退していて、どうやって生き延びるかというのが大きな課題でした。そこでは観光は観光客と観光業だけのものではなく、むしろ観光客を嫌っていた農林水産業の人たちが一緒に加わって、村全体の業として観光をつくっています。そういう意味で、私は、観光でない部分も観光になりつつあるのだという意識を非常に強く受けました。
ところが、ここで滋賀県の観光の様子を見ると、私が熊本で体験したものと全く違った豊かさがあるので、ちょっと驚いています。その驚きも含めて、滋賀県の観光というものを考えていきたいと思います。
○高崎
観光産業というのは、21世紀の基幹産業になると言われていますが、そういう中で観光地間の競争が非常に激しくなってきています。お客様にとっては、非常に旅が身近になりました。そうなると、観光地を見る目というのはどんどん厳しくなってきます。
そういった中でこれからどのように観光地を考えていくのか。これからは、中・長期的なビジョンで1つのものをつくるということが、大事なのではないかと思うのです。その町で本当に暮らしている人、生活の場が1つの観光素材であるという考え方で、腰を据えて長期的な視野で発信して、発展させていかなければ、観光というのは長続きしないのではないかと思うのです。
観光というのは「国の光を見る」と書きますが、もしかすると観光素材というものは、光だけでなくて、生活そのもの、もしくは混沌としたもっと闇の部分みたいなものも含まれるのではないかと思っています。
○井戸
今、観光に関する総論的なものをお話しいただきました。その土地でたくましく生活している人たちの暮らし、生活なども観光にとって大事なことではないかというご指摘だったと思います。
それでは、今度は滋賀という地域と結びつけた上でお話をいただきたいと思います。
○広野
先ほど、中国の楊先生のお話を聞いて、国を挙げての観光政策というのはすごいなと思いました。10年経てば、日本人の中国への観光旅行はますます盛んになるでしょう。では中国の人は滋賀に来てくれるのだろうかということをチラツと考えました。昔、私が中国からのお客様をお迎えした時、界隈性のある大阪の通天閣のあたりに行くと大変喜ばれました。やはり違うもの、自分たちが持ってないものに対する意識をどうつくりあげていくかが、観光のひとつの課題だと思います。
そういう意味で見ると、滋賀県は風光明媚であり、大きな琵琶湖があり、山々もあり、本当にいろいろなものに恵まれています。でもそこに住む人の息づかい、熱意、愛着というものを感じさせなければ、各々の違いが明確になりません。それぞれの町の違いを1つのストーリー化していくことも、これからのまちづくりの中では大切なこととなるでしょう。滋賀県、特に琵琶湖を囲むそれぞれの町の個性の発揮というのが重要だと言えます。
今日、私が分科会でお話をしたいと思っているのは、元気な町をつくるためにはどうしたらいいのかということです。まず、自分たちの町の再発見・再認識させるための人の輪づくりから始めなければなりません。基本的にまちづくりは、そういう人の輪をどうつくるかということではないかと考えています。
○前田
地域資源というものは今、いろいろな角度から見直されています。それは、地域資源というものを単に神社仏閣の建物などの「物」としてよりも、「事」としてとらえていると言えます。歴史的な事実とか、ストーリーが、現代の地域社会にどう結びついているか。そういう、空間だけではなくて、時間軸をも含めた地域資源の見直しが大切だと思います。
お寺がある、レジャー施設がある、でもそれは「物」としての情報だと非常に印象に残りにくい。本当にどんな意味があるのか、大事なものか、おもしろいものか、またどういう歴史があって、どのように「今」にかかわっているのかという「事」、ストーリーがなかなか我々に伝わって来ませんでした。地域の中では「事」の集積、歴史の見直しが盛んに行われており、非常に豊かな資源の発掘がなされているのです。それを外部に出してほしいと思うのです。滋賀の観光資源を見直すというのは、これまで「物」としてだけしか伝わってこなかったものを、「事」としての観光資源として外に出していくことです。
これまでの空間志向から時間志向へ、観光資源のとらえ方が変化しているといえます。言葉を変えれば、生活者の知恵の集積、これが観光資源になるのではないかと思います。
○高崎
日本人の観光というのはまだまだ周遊型が中心です。しかし最近は、リゾートに滞在をする方も増えていて、そういった方は、当然日常とは違う環境を求めています。都会と同じものは求めていないのです。リゾートの魅力はとにかく癖になる何かだと思います。それは静かになれる心とか、落ち着けるとか、何も考えないという「何か」です。これを具体化していくことがリゾートづくりのポイントではないかと思います。滋賀県の持つリゾート性というところにも着目しながら、この後の分科会ではご議論を進めていければなと思っています。
○井戸
いろいろな問題提起をいただきました。歴史文化資源が滋賀にはたくさんあります。国宝、重文の数は全国の6.6%もあり、東京、京都、奈良に次いで第4位です。普通の田舎にすばらしい歴史文化資源がある。これが滋賀の特徴だと、私はいつも言っています。それをどうネットワーク化していくかが大変大事な問題で、ここ三、四年前からそういうネットワーク化が緒につきました。近江歴史回廊構想というのがあります。時代性とテーマ性を考えて、歴史文化資源をうまくつなぎ、10本の探訪ルートを設けました。
観光のキャッチフレーズも「だから滋賀」も結構ですが、私がもう20年ほど前から言っているのは「途中下車してみませんか」です。後の分科会でも、活発な意見の交換がありそうで、楽しみにしています。ありがとうございました。
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