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◆ 分科会B<「黒壁」は三重県でも成功するのか?>
記事No/ 13 (記事No: 11への返信記事)
投稿者/ 風来坊
投稿日/ 2003年2月12日(水)00:10
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分科会B<「黒壁」は三重県でも成功するのか?> 

担当パネリスト 清水義康 

○清水

「黒壁」は、今は株式会社「黒壁」といって、第3セクター組織で運営しています。資本金4億4.000万円、そのうち長浜市が1億4.000万円、残りの3億円を民間で出資しています。

長浜市は江戸時代から経済圏、文化圏として成立していました。長浜自体は小さな町ですが、その周辺の町から買物に来るという、特に商業機能の中心地でした。

昭和50年代から60年代の初めに、壁の外側が黒かったことから通称「黒壁銀行」として親しまれていたカトリック教会が郊外に移転することになりました。そこでその名物建築でを何とか保存できないかという話になったのです。そして民間からの出資で昭和63年4月に正式に会社として発足しました。

何をやるかという事業展開については、全く考えがありませんでした。地場産業をキーワードにしてみんなで検討しましたが、結局何も決まらなくて何カ月かが過ぎていきました。

そんな時に社長が「ガラスはどうか」と提案したのです。しかし、実際に長浜とガラスは縁もゆかりもありません。ただ、以前から我々の基本的なコンセプトとして、1]既存の業種とバッティングすることによって地場の店や産業がダウンしてしまう業種は避ける、2]外からお客様を呼び寄せられるものにする、3]大都市と大企業にはできないこと、の3つの視点を考えていました。さらにまた歴史性、文化・芸術性、国際性ということをテーマに掲げて事業を考えてもいました。だから、ガラスを取り上げた点では、長浜でなくても、全国どこででもできた事業だと思います。当然三重県でも成り立ったわけです。

現在、ガラスをキーワードに26店舗まで展開し、平成9年度ベースで157万8.000人の来訪者があり、経常利益4.800万円でした。

次に、今後の目標として第3セクターとしては異例のことですが、来年の秋に株式の店頭公開を行います。また、今年の4月に岩手県の江刺市に「黒壁」の店舗をオープンし、その一角にガラスを扱う店をすでにオープンしています。こういった形で、長浜で培ったまちづくりのノウハウを今後全国展開で広げていこうと考えています。

長浜の「黒壁」の経営の基本的な考え方としては、長浜だけがいいという状態は、あり得ないだろうから、日本全国全体を底上げして、その中でさらに長浜が段レベルアップするということを基本にやっています。

さらに、ガラスをキーワードに大学のガラス学科の誘致を進めています。また「黒壁」のある通りは北国街道という昔ながらの街道筋ですが、北国街道とオーストリアのラッテンベルグという町にある街道とガラス姉妹街道という形で提携しています。あるいは、ガラスの関係でベネチアなどにもいろいろな形で折衝を行っています。そういうことから世界戦略を図ろうと考えているのです。

「黒壁」のガラスももちろんですが、日本のガラスは、ヨーロッパとでは幼稚園と大学生ぐらいの開きがあります。今、とりあえずガラス文化をとことん追求していこうという姿勢で長浜のガラスはやっています。そういった中で、世界でガラスと言えばベネチアだ、チェコだ、長浜だと言われることを目標にしているのです。

次に、経営者についてですが、当初オープンした時は専務は自営業を経営していましが、会社の経営はすべて弟さんに委ねて、この「黒壁」に無報酬で常勤で勤めています。ただ、株式を店頭公開しなければならないということで、去年から役員報酬を払っている。このように当時、無報酬で携わる人間がいたということが「黒壁」の大きな成功の1つの要因です。

さらにまた株式会社「黒壁」は現在約100名の従業員を抱えていますが、男性は5人ほど、あとはすべて女性です。部長、課長はすべて女性なのです。

考えてみれば、ガラスを突き詰めていく中で、長浜の町の活性化を図ろうというまちづくりディベロッパー的な会社が「黒壁」です。

今日はこの「黒壁」の手法が三重県でできるかどうかというお話ですが、前置きはこのくらいにして、皆さんの忌憚のないご意見をお伺いしたいと思います。

○参加者

三重県では「黒壁」は成功しないと、結論を先に言われましたが、その理由はどこにあるのですか。

○清水

決して成功しないわけではありません。もちろん三重県でも伊勢市でも、地域のことに一生懸命携わっておられる方はたくさんいらっしゃると思います。ですが、「私の町が一番ではないか」という、我々の町にはそういった自負があります。今、イベント関係で寄付金を1億円集めています。これだけのお金が皆さんの地域で集まるかどうか。

そういった寄付金活動の多さを考えてみてください。私どものほうは事務局としてやっているだけですが、そういった寄付金を集めるだけの役員が一生懸命頑張っている。そこまでのことが皆さんの町で実際にできるかどうか。できるとおっしゃるのであれば、成功する要素はあると思います。

○参加者

今言われた寄付金のことですが、旧来からこういうスタイルで集めておられるのですか。また、すんなりとこれだけの金額が集まるものでしょうか。それとも「黒壁」が立ち上がってからそういう状況が生まれてきたのでしょうか。今までの経過をお聞かせください。

○清水

決して「黒壁」が成功したから寄付金集めもうまくいったというわけではありません。我々の町は全部で約1万7.000世帯ありますが、すべてのところに封筒を配っています。その中に寄付金を入れて出していただきたいと、そういったやり方をしているのです。つまり市民みんながお金を出すのだということです。これはずっと前からやっていることです。

これは、1つには、お金を出すことによって傍観者にさせないこと、イベントにしてもみんなができるだけ参画をしょうという意味を持ったやり方なのです。

「黒壁」が中心に展開しているということを、1つご紹介させていただきましょう。

昨年の秋からプラチナプラザというものを立ち上げました。これは一昨年、NHKの大河ドラマの「秀吉」に合わせて「秀吉博覧会」というイベントをやったことに起因します。その時にイベントのスタッフを集めるのに、若い女性が揃いの制服を着て、というのがよくあるパターンなのですが、我々の町では集めるのが難しかったので、スタッフ募集の合言葉を「青年男女を求む、ただし55歳以上」として、シルバースタッフを取り入れたのです。歴史的なイベントであること、そしてホスピタリティーを大切にしなければならないこと、外客を受け入れるということなので、歴史に造詣が深く、物腰が柔らかいご年配の方をぜひとも参画してもらおう、そういった先輩の知恵と一緒にやっていこうということが基本になりました。

このイベントは8ヵ月のロングランイベントでした。一生懸命やっていただく間に、町のことに関わる喜びと誇りと自信みたいなものがシルバーの方々に沸き上がってきました。

○参加者

私は今まで「黒壁」に3回行ったことがあります。最初に行ったのが3年ほど前で、3回目はつい最近です。

それで、この前行った時に気づいたのは、「黒壁」の中に骨董品屋さんがあったこと。最初に行った頃はどこの町にでもある骨董品屋さんだったのですが、つい先頃は古い風情がなくなって、完全に観光客向けの商品を置いていました。最初に行った時、そういうふうに昔ながらのものを売っている店と、新しいガラスを売っている店、そのミスマッチがおもしろくて、非常に新鮮なイメージを受けたのですが、骨董品屋さんが観光客向けの品揃えをしたことで、普通の観光地になってしまったという気がして、ちょっと残念な気がしました。

○清水

長浜は今、すばらしい、すばらしいばかりではありません。本当に私たちはたくさんの悩みを抱えています。確かにたくさんの人に来ていただくことにはなりましたが、長浜の「黒壁」周辺、市街地周辺は観光客目当てで最高の商売の場だという意識がかなり高まってきているのです。

極端なことを言えば、儲かるからお店を出そうとか、これを置いたら儲かるとか、そういう視点が先行しているきらいがあるのです。本来は長浜のよさというのは、生活文化の中に新しい血を入れて、いわゆる古いものと新しいもののミスマッチがよかったと思います。今は市民の生活感がどんどん消え去っているのは事実だと思う。それは我々が一番危倶している点です。

例えば三重県で言えばあるいは、「おかげ横丁」だったら、まだまだ人の生活感があって、地域に実際に根付いていますね。観光客だけではなくて、地元の人もポッと行って全然違和感のない世界。三重県のそういった姿については逆にお尋ねしたいと思います。

○参加者

「おかげ横丁」はもともとであったのが、テーマパーク化してしまった部分があります。その大きな要素として、やはり時間帯の問題があると思います。伊勢の「おはらい町」の場合は大体3時ぐらいまでで、その後、志摩の方にお客さんが流れます。ずっとそこに滞在できるような感じの町ではありません。住民の皆さんがそこにいて過ごせるような空間とか仕掛けが必要だと思うのです。

これからの課題は、そこへどうやって、もう少し長い時間、人がいられるような町にしていくかです。今は生活感が非常に薄れた町になってしまったというのが、「おはらい町」の実態です。

○参加者

私の町の川崎町は、「おはらい町」よりも「黒壁」みたいになる可能性がもしかするとあるかなと思っています。昔の問屋街で、水運で栄えた町です。今でも立派な蔵がたくさん残っていますが、活気は全くと言っていいほどない。

今、川崎の町の人々で、ここを何とかしょうじゃないかという機運が少し起きてきています。

例えば「おはらい町」の今の建物はやはり整備されてからできあがった、新しいものが多いですね。川崎の蔵は100年、200年の歴史を持っており、非常に立派な重厚な蔵がたくさん並んでいます。そういった状況はもしかすると「黒壁」が成功する以前の状況に近いものかもしれません。

○参加者

川崎は、蔵バンクを設立しました。90棟ほど残っている蔵や町家を何とか今の時代の中に生かしていきたい、生かす方法を何か提案しようじやないかということで設立されたものです。

ただ、地域の人の盛り上がりが今一つというところがあり、それが大きな課題です。そういうことに気がついて走っているグループはいいけれど、なかなか今、広がりは出てきていないのです。人の気持ちを起こすようなことで、何かヒントがあればお教えください。

もう一つは、中心商店街の疲弊ということです。伊勢にはいろいろな商店街がありますが、10年前の長浜市と同じような、人がいない町がどんどん出てきています。そこを何とか生かせる方法はないのでしょうか。商店街の違う生かし方があれば、またそれも教えていただきたいと思っています。

○清水

長浜で「黒壁」が成功した1つの視点としては、雰囲気は目一杯長浜らしさを活用しながら、ガラスというキーワードになるものについては全く歴史性とか地域性はなかったことです。それもこれからの皆さんの地域で開発をされる時の一番重要な要素ではないかと思います。

例えば今、川崎という蔵がたくさんある町のことが出ましたが、そこで何をするのかというのも大切な議論ではないでしょうか。

○参加者「黒壁」さんが10年間成功した背景には、対外的なPRをしたということもあると思います。その点、どんな宣伝をしてここまでこられましたか。

○清水

まず1点目に株式会社「黒壁」としてのPRはほとんどしませんでした。ポスターは小さいものはつくりましたが、基本的なものはっくっていません。観光協会なり、行政そのもので町をPRするポスターの題材として第3セクターである「黒壁」を取り上げた。そういった、これが長浜の町の新しい魅力なんだというふうなPRをどんどんさせていただきました。

PRは私が担当していましたが、旅行会社へのPRは基本的にしませんでした。マスコミヘのアプローチは多彩な関係でやっています。例えば全国の雑誌、新聞へは情報を出しています。さらにまたロコミでPRをしてもらってもいます。宣伝については基本的にはパブリシティーです。また、JR西日本が一生懸命PRしてくれたということがあげられます。JRといろいろなタイアップをして宣伝をしたことが大きかったと思います。だから我々の地域から見ると、伊勢志摩あたりだとJRの色は全く見えてきません。近鉄が強烈な印象です。三重県のPRは行政というよりも近鉄がやっているイメージが強いですね。

○参加者

最初スタートする時に、社長にはあえて、行政の推した人をはねのけたというのは成功の1つの要因だったと思いますが、その後、こんなことをせよ、あんなことをせよと、行政から制限は加えられなかったのですか。

○清水

資本金比率で、当初民間が9.000万円で行政が4.000万円でした。増資してからも4億4.000万円の中で、市が1億4.000万円で、3分の1に満たない額です。極端なことを言えば、市の思いどおりに全くならないという会社です。

しかし、当初、「黒壁」を設立して何年かまでは、ある程度、行政がリーダーシップを取っていました。その後、だんだんと民間が力をつけていって今のような民間主導型になったのです。逆に行政がインフラ整備などで、後ろから追いかけているという状況になってきたということが今の長浜の状況です。

○参加者

ガラスの何が「黒壁」に合ったのか。やはり女性に受けることとか、値段が安いものから高いものまで設定できるとか、いろいろあると思うのですが、ガラスで成功した一番の要因は何でしょうか。

もう一点は、ここまできた以上、ガラス以外にさらにもう一つ、キーワードというか、核になるものを「黒壁」に付加しようという考え方があるのかどうか、お伺いしたいと思います。

○清水

なぜガラスがよかったか。時代的によかったということは確かにあると思います。まず、日本の中に既存ではあまりなかったものであるということ。例えば陶器、磁器の関係であれば、先発組がたくさんあります。そういった面ではガラスは非常によかった。また、ちょうどその頃から日本の国内全体的に、ガラスそのものが生活の中に根づいてきたという時代でもありました。そのことは非常に運がよかったと思います。

ただ、とにかくガラスの質を高めていこうということを一生懸命言っています。だからガラスのおみやげ屋ではなくて、ガラスを文化としてどこまで追求していくか、高めていくかというふうな視点が経営の中にありました。そのあたりもガラスが受け入れられた理由の1つではないかという気がします。

ただ単に物を売るのではなくて、ガラスを地域として全体的に展開していく。例えば今、カルチャースクールのようなもので、「ガラス大学」という名称でガラス講座をやっています。この卒業生が500人います。そうすると、人口5万人の中でガラス大学を卒業した人が500人。市民の100人に1人がガラスについて知っていることになります。これだけガラスについて知っている密度の高い町は、長浜が日本で絶対に一番だろう。さらに長浜市内の6つの小学校の5年生は、全員が「黒壁」で授業の一環としてガラス細工を楽しむということもやっています。

そのようにいろいろな形で、徐々に、外向きばかりではなくて、地域に住む人たちもガラスに対しての思いをどんどん高めていく工夫をしています。

また、今後についてですが、現段階ではあくまでもガラスにこだわろうという形にしています。一般客向きではありませんが、世界で数名しかいないガラス鑑定士という資格を持った方のお店を1店つくっています。

つまり世界でも超権威のある人が来て、その人のお墨付きのガラスが長浜にあるということです。これは日本全国どこにもありません。これは極論すれば、これからはガラスは日本では長浜が一番だということになるだろう、ということです。世界中を見ても、その人の作品は特定の場所にしかないということになってくれば、当然長浜のガラスのステータスはだんだん高まってきます。

○参加者

江刺市に出られたということですが、そのほかに全国展開をされる話はありますか。地方都市に「黒壁」として出る計画はあるのでしょうか。

○清水

可能性はないことはない。逆説的な言い方ですが、江刺に出たのは、江刺は条件が悪かったからです。東北の田舎で人口がどんどん減っている地域。今、我々の町は視察の団体がたくさん来ていますが、それらの中でも条件としてはあまりよくありませんでした。しかし逆に江刺で成功すれば、日本全国どこでも成功するのではないかという自信を持っために思い切って江刺に出たという経緯があります。オープンしてからまだ2ヵ月余り。今のところはそこそこ順調にいっていますが、今後どうなるかはわかりません。

長浜も今はいろいろな悩みを持っています。商業主義的な発展に偏重しすぎているきらいがあるのです。「黒壁」近辺にはそういった「黒壁」的な環境向けの施設もあれば、昔からそこに住んでいらっしゃる方もいる。

商店街としても、今は全く観光客向けの商店街になりつつあります。地元向けのロードサイドショップ、観光客向けの中心商店街という形で、全くの分化が進んでいます。そういったことが本当にいいのか、長浜の場合は確かにたくさんの人にどんどんお越しいただいて、産業としては成り立っているけれども、人がだんだん住めなくなっている。そういった大きな課題も長浜にはあるということを、逆に皆さんにご承知おきいただきたいと思います。長浜市にお越しいただき、新しい目でまたご示唆をいただければありがたいなという気がしています。

長浜の「黒壁」は成功したけれども、これが三重で成功するのかどうかは大変難しい話です。最初に「成功しない」と言いましたが、皆さんのやる気があれば成功する。長浜が今、抱えている問題も含めて解決するような開発がなされれば、先ほどおっしゃられた川崎でもできるのではないかと思います。ただ1つ言えることは、いろいろな形で核になる人が、その展開には必要であるということです。

我々の地域で誇れることは、官と民の境がなく、みんながいい意味でのパートナーシップの関係が保たれている町であるということ。これがあったから「黒壁」が成功したと思っています。




以下は関連する記事の一覧です。 [一括表示]

[参考]パネルディスカッション - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:05 No: 11
......... ◆ 分科会A<あなたの地域でイベントを創出してみませんか?> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:08 No: 12
.................. ◆ 分科会B<「黒壁」は三重県でも成功するのか?> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:10 No: 13
........................... ◆ 分科会C<三重県の集客カは強いのか弱いのか?> - 【風来坊】 2003年2月12日(水)00:14 No: 14
.................................... ◆ Re: [参考]パネルディスカッション - 【勝】 2005年12月9日(金)11:57 No: 32


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