海外移動先における社会ネットワーク形成についての一考察 [2006.02.04]
―「在日本中国朝鮮族」の事例
朴鮮花(東京経済大学大学院博士後期課程)
本論は「国籍は中国に、民族性は朝鮮半島に、居住地は日本に」という社会性をもつ「在日本中国朝鮮族」
を研究の対象としている。「在日本中国朝鮮族」の持つ多様な社会関係を活かした、社会ネットワーク形成と
その中における役割に関しては、早い段階で議論が提示されていたが、実現に向けての動きは鈍い。
従って、本論では、このような現象に対する原因究明を試みた。具体的には、二つのアンケート調査と三つの
団体への参与観察で得た一次データに基づき、その検証を行ったが、各章の構成は以下の通りである。
序章では先行研究サーベイと問題提起をし、第一章では「在日本中国朝鮮族」のアイデンティティ帰属先でも
ある中国朝鮮族の概念、歴史と現状を紹介した。第二章と第三章では、「在日本中国朝鮮族」個人対象アン
ケート調査と「在日本中国朝鮮族起業家」に対するアンケート調査を取り上げたが、第二章が実態分析、
第三章が意識分析である。第四章では筆者が一年半近く参与観察した、「在日本中国朝鮮族」の三つの主要
団体についての考察である。結論では、「在日本中国朝鮮族」の社会ネットワーク形成における問題点につい
ての筆者の見解を示した。今後の研究課題についてもここで述べている。
まず、実態においては、「在日本中国朝鮮族」の来日は、就学生の身元保証人制度が廃止された1997年
以降から2003年にかけて集中し、年齢代は20代と30代がほとんどで、「就学」と「留学」資格での来日と
滞日の学生層が、依然「在日本中国朝鮮族」の主流層であることが確認できた。物心両面大変な状況におか
れているこれらの学生は社会人と違い、日本社会との接点は割りと希薄な社会関係しか持たなく、それがため
に、元来の中国朝鮮族としての意識がより強く働く可能性が高いことは十分考えられる。
このような実態の社会的表出とも思われる団体に至っては、意識的に社会ネットワーク形成に取り込む所も
見えたが、「在日本中国朝鮮族」の内なる集団が強化され、排他的役割を果たしている所がより鮮明に見えた。
実態、団体、並び意識の研究を踏まえての筆者の結論は、「在日本中国朝鮮族」の社会ネットワーク形成に関
する認識の普及を阻害する一番の問題点は、他ならぬ、自集団、中国朝鮮族への「拘り」だということである。
このような「拘り」により、「在日本中国朝鮮族」と関連集団との関係は、究極的にはその関連集団と中国朝鮮族
の利害関係に左右されてしまう。さらに、このような「拘り」により、中国朝鮮族の限界性と「在日本中国朝鮮族」
の可能性の両方が見えなくなる。例としては、「在日本中国朝鮮族」が自身の多言語力への認識は高いが、
自身の多文化性への認識は乏しい点をあげることができるが、まさに言語教育を中心に民族教育を実施してきた
限界性の現れであるとみてよいだろう。
つきましては、「在日本中国朝鮮族」という新しい概念の定義により、そのような意識の普及への働きかけも可能
ではないかを問題提起する。
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