xxxxxxx
朝鮮族通信 中国の朝鮮族に関するニュースポータルサイト Search by Google:
ホーム 朝鮮族概要 地域紹介 政治 経済 歴史 観光 ショッピング コミュニティー お問合せ



中国の東北工程について [2005.05.15]  


昨今、韓国で社会問題になっている東北工程につき、日本のマスコミが奇妙なほど沈黙を守っている。
古代国家・高句麗を中国の一地方政権であると主張し始めた中国に対し、韓国が猛反発している
ことについては報道しても、それが単なる民族の自尊心の衝突に過ぎないかのような軽微な扱いに
とどまっている。しかしこの問題は、実は東アジア全体の政治・経済にも大きな影響を与えかねない
危うさを孕んでおり、韓国だけでなく日本国民の認識を深いものにすることが必要と考える。
そこで、中国の東北工程をめぐる一連の動きについて概説した上で、持論を展開してみたい。

東北工程とは

昨年7月、高句麗遺跡が世界遺産登録を果たしたことは、日本でも大きく報じられた。折しも中国外交部
がホームページから高句麗史の部分を削除、韓国から「歴史歪曲」との批判が噴出した。
中国側から様々な形で「高句麗は古代中国の一地方政権に過ぎなかった」との主張がなされていること
につき、韓国側が「高句麗は朝鮮民族の完全な独立国家」として猛反発している。8月に韓国を訪問した
武大偉アジア担当副部長(次官級)が「歴史問題によって友好協力関係が損なわれることを防止しよう」と
した5項目の口頭了解に合意が出たことでひとまず収束したものの、いまだに燻っている問題である。

北朝鮮の反発も強い。中国との軋轢を経て北朝鮮「高句麗古墳群」も世界遺産に同時登録されたが、
高句麗問題では韓国と共同歩調をとる動きを見せている。また、韓国の学会が世界遺産問題で北朝鮮へ
の支援を訴えたように、韓国政府や世論も南北共同で対処するムードが広がっている。

中国における一連の高句麗史研究については中国社会科学院が「東北工程」(東北辺境歴史と現状系列
研究工程)と呼ばれる国家プロジェクトにより進めている。1996年重点研究課題に決定、2002年から
本格的に開始した。5年間の同プロジェクトにかける国家予算は200億元(約3000億円)といわれている。

韓国側の分析

1.延辺の防衛

韓国側が警戒しているのは、まず、満州地方にルーツと多くの領土を持っていた高句麗を韓国史から排除
することによって、満州を南北統一後の韓国が領有することの正当性をあらかじめ排除しようとするものだ
という民族派の主張がある。

北朝鮮が裕福になり延辺地域との経済格差が逆転したりすると、国内に多くの少数民族を抱える中国ならでは
の不安が台頭する恐れがある。もともと延辺は間島地域と呼ばれ、朝鮮民族が切り開いた土地であったのだが、
日韓併合直後に日本が清国と締結した間島協約により中国領になってしまったという経緯があり、これを韓国
が無効として間島の領有権を主張している。生活水準が北朝鮮と逆転すれば、延辺の朝鮮族が韓国に同調し
て独立運動が起きるかも知れず、それはやがてチベットやウイグルなど他の少数民族にも飛び火し、中国全土
に分裂闘争が拡大するかも知れない。つまり中国側としては自国防衛の見地から、先手として東北工程を推進
している側面があるというわけだ。

内蒙古自治区やチベット自治区、新疆ウイグル自治区などは「省」と同レベルの自治権を与えられているが、
延辺朝鮮族自治州は吉林省支配下の一地域という格下の扱いだ。1952年に自治区として認められたものの
、3年後に自治州に格下げされてしまった。これは民族運動が盛んな朝鮮族を中国政府が警戒したからだが、
文革の頃にも朝鮮族の民族運動家が「反動分子」の名目でしばしば弾圧された。最近でも、自治州の最高実力
者である州書記が89年から一貫して漢族から任命されている事実を見れば、中央政府が今だに安心はしてい
ないことが伺われる。

2.米軍の影響排除

南北統一により、何よりもまず、朝鮮半島北部が米国の統制下に入ることになり、これはすなわち鴨緑江・豆満江
の南岸まで米軍基地が作られる可能性を意味することになる。これは中国にとっては決して妥協出来ないもので
あり、中国が朝鮮半島の統一を望んでいないと主張する人々の最大の根拠でもある。これもまた、中国にとっては
防衛的な国策であり、その意味では必然と考えられる事由かも知れない。

3.北朝鮮の領有−経済戦略

防衛だけにとどまらず、積極的な事由もあるといわれる。中国がゆくゆくは北朝鮮を支配することを狙っており、
その正当化のために「朝鮮半島北部は太古より中国領のようなものだったのだから、中国軍が進駐しても何ら不当
ではない」というロジックを確立することを狙っているのではないかという主張も根強い。金正日が保身のために国家
の主権を自ら進んで中国に譲渡すれば・・・彼としては、現状のままクーデターが勃発したり南北が統一するよりは、
北朝鮮が中国の一部になり自分が自治州のトップに収まった方が安全であり、当然にその可能性を考えているとい
われる。韓国にとってはまさに最悪のシナリオとなる。

北朝鮮の日用品輸入の90%が中国からという現状、政治の主導権を中国に移行させるのも何ら障害なく
スムーズに出来るといわれている。北朝鮮は鉄・金・石炭・モリブデン・ウランなど地下資源の宝庫であり、
これが長い間、資源ナショナリズムと開発の遅れにより、外国勢にはほとんど手付かずのまま残されて来た。
ここ数年、中国企業が着々と北朝鮮の鉱山開発に乗り出している。

また、北朝鮮の領有により、清津・咸興・元山などの日本海側の良港が全て中国の港湾となる。これは対日本・
対韓国の物流拠点として、非常に重要な意味を持つこととなる。当然、日韓間の懸案である日本海の漁場問題や
竹島・独島領土問題などに中国が参戦して来ることは十分に予想される。

中国は対ロシアでは、今年初め、長年の懸案であった国境紛争で全面的に譲歩し、その大賞としてロシアからの
安定的なエネルギー供給の約束を取り付けた。また、カザフスタンからは長大なる石油パイプラインの敷設を進めて
おり、巨大化する経済を支えるためのエネルギー確保を外交の最重要課題としている。東シナ海の春暁ガス田試
掘も、中国の壮大なエネルギー政策の一角である。また、6ヶ国協議において、中国が北朝鮮に核の平和利用を
積極的に認める立場を主張しているが、これは管理の難しい原発を北朝鮮に量産させ、電力不足に悩む中国へ
安く供給させることを狙ったものだという見方もある。東北工程は、中国の経済戦略上も強力なバックアップとなる
プロジェクトなのだ。

日本への影響

中国政府は東北地域の農業振興にも大変な力を入れている。昨年、未曾有の大豊作となった黒龍江省をはじめ、
東北地域の農業熱が大変な盛り上がりを見せている中、吉林省東端の琿春付近では大規模な農業基地の建設
が進められている。鴨を使った有機米生産を推進するとともに、イチゴ基地、肉牛の飼育場、漢方薬草・洋蘭・天
然食用菌類栽培加工など、比較的付加価値の高い産品に力を入れている。このようなプロジェクトが、上海や北京
などから遠く離れた辺境地で日本海に近い琿春において進められているということは、これらの産品が国内の大都
市よりも海外、特に日本の消費市場に向けられている可能性を伺わせる。

中国・韓国から安価良質の農産物が大量に流れ込み、食材の価格破壊が急速に進行し、日本の農業は非常に
苦しい立場に追い込まれている。韓国が日本に近い慶尚南道に巨大農業基地を作り、IMF危機以後の農村経済
を目覚しく回復させたのと同様に中国もまた輸出を起爆剤にして農村のテコ入れ・貧富の差の解消を狙っている。
北朝鮮が中国領になれば、中国は1938年に張鼓峰事件で日本がソ連に大敗して失った「日本海の港」を、奪回
することになる。するとこれまで山東半島や大連等から朝鮮半島をくぐって日本に搬送されていた中国の農産物が
日本海をひとまたぎして入って来るようになり、価格破壊がさらに一段と進む可能性がある。日本の農家はもちろん
のこと、中国に日本市場を奪われる韓国にとっても深刻だ。

中国の東北振興政策

中国政府は近年、東北3省の振興に特に力を入れている。いわゆる「東北振興」(中国東北部従来型工業基地
再開発計画)プロジェクトの推進は、2002年11月の16全大会において方針が打ち出され、2003年6月、
温家宝首相が遼寧省を視察した際、「東北地域の振興と西部大開発戦略は東西の両輪」と発言したことで、一躍
脚光を浴び始めた。東北部の重工業地帯は、旧来の重厚長大型の国有企業が多く、市場経済化に対応できず、
発展から取り残され失業問題も深刻化している。工業地域であるにもかかわらず、失業率の高さが全国トップ
クラスとなっている。そこで民間資本と外資の導入などにより市場メカニズムに適応した近代的企業に改革する
ことで、新型産業基地への再生を進めようというものだ。

昨年9月からは、中国の付加価値税、いわゆる増値税が従来の生産段階課税型から国際標準の消費段階型へ
移行するためのモデル実験を全国に先駆けて東北3省で実施している。

上海付近を頂点に過熱気味になっている中国経済を地方に分散して、バブル崩壊回避を狙う、あるいはロシア・
北朝鮮と接する国際的立地条件の良さを活用するという狙いももちろんあるだろうが、「東北振興」には「東北工
程」による北朝鮮領有に失敗した場合の担保としての意味もある、とまで見るのは、あまりにも穿ち過ぎだろうか?

韓国側の対策

韓国では、様々なシンポジウムが開かれたり、各地で抗議集会が行われている。高句麗や渤海の古墳からそれら
の国々が独自の年号を用いていた証拠が発見され、中国皇帝からの独立性すなわち地方政権ではなかったことが
証明出来るなどの、学術的根拠をあげて対抗する構えが一般的だが、一方では「学術的ではなく政治的に対応しな
ければ中国の説得は無理」とする主張も出ている。

ただ、韓国側にも弱みがないわけではない。それは中国朝鮮族の韓国法上での位置付けに関する問題で、在米・
在日の韓国人に比べて著しく不利な立場においている。また韓国へ出稼ぎに来ている朝鮮族に対する社会的差別
が深刻で、朝鮮族の中でも不信感や反発が出ている。このことは当然、中国側に有利な材料になる。

景気の低迷が甚だしく、ただでさえ国内の失業問題が深刻な韓国において、10万人を超えるという朝鮮族の出稼者、
そしてその大半がオーバーステイの不法就労者になっている現状への対処は、舵取りが難しいようだ。

                                                 以上

                                                 (M・S)
		

Copyright(C) 朝鮮族ネット