BACK][NEXT

第22回 韓日歴史座談会           
         「加藤清正の13歳捕虜」に参加して

東 道生


このたび、初めて参加させていただきました。
かねてより日韓の歴史には並々ならぬ関心を抱き、書籍やインターネット上でいろいろな知識を漁っていた私ですが、身近なところに これほど充実した機会が開かれているとはつゆ知らず、もう少し早く気付いていればと悔しい思いも致しました。
座談会にて紹介しました愚説を、再度この場を借りまして披露させていただきたく存知ます。自説に自信が あるからというわけでは決してなく、むしろ多くの方々のご批評を仰ぎたいと思うからです。

私がホームページ運営のお手伝いをさせていただいております、津市分部町唐人踊りは、360年前から伝わる伝統舞踊ですが、朝鮮 通信使の行列を真似たものだといわれております。この種の舞踊は、鈴鹿の唐人踊り、岡山県牛窓町の唐子踊りと並び、現在日本に3つ だけ残っているそうです。
定説によりますと、藤堂藩2代目藩主の藤堂高次が江戸で参勤交代の際、朝鮮通信使の一行に遭遇して興味を覚え、踊りにして 伝承するよう命じたのが始まりとのことです。

彼の父・藤堂高虎は、文禄慶長の役においては日本水軍の総大将として、九鬼水軍を率いて朝鮮国に渡りました。ご周知のとおり、 李舜臣将軍率いる朝鮮国の精鋭艦隊に完膚なきまでに叩きのめされ、命からがら逃げ帰って来ました。
秀吉の死後、高虎は徳川家康の命令により朝鮮国に残された14万もの日本兵を撤収する仕事を任され、敵の攻撃をかわしながら見事にやってのけました。 その際に数多くの財宝や捕虜を日本へ持ち帰ったであろうことは想像に難くありません。津偕楽公園には龍灯篭と呼ばれる石灯篭があり、 そこには龍をはじめとする想像上の珍獣の顔が施してありますが、これは高虎が朝鮮国から持ち帰ったものと言われています。

また同じ藤堂藩の伊賀には、伊賀焼きがあります。実にさまざまな色合いの焼き物がありますが、特に緑色の作品を見るたびに私としては 高麗青磁との類似性を感じずにはいられません。或る伊賀焼きの専門家にその点を問いただしたところ、朝鮮国から連れて来られた 陶工の影響の影響を受けた可能性も充分にあるだろうとのことでした。
こうした状況の中、息子の高次が。親の仇とも言える朝鮮国の人々の姿を、単なる好奇心だけからわざわざ踊りにして伝承させたというのは、 人間の心理として考えにくいことではないかと思うわけです。おそらく何がしかの贖罪意識が彼の心にあったのではないでしょうか?
故郷を偲んで嘆き悲しむ朝鮮の人々のせめてもの心の慰めにという趣旨で伝承させた可能性があるのではないかと思います。 つまり、今や津まつりの目玉として市民に親しまれている唐人踊りが、もともとは朝鮮の人々のための鎮魂歌であったという仮説も出て来る わけです。その証明になる根拠は何もありませんが、津出身の私としては、そうであって欲しいと願うばかりです。

唐人踊りにつき、詳細は次のサイトをご参照下さい。
http://www.searchnavi.com/~hp/tojin/

今年7月、津においてわらび座主演のミュージカル「つばめ」が公演され、私も見に行って来ました。文禄慶長の役で捕虜として日本につれて来られた 女性が、朝鮮通信使の一員として夫が連れ戻しに来てくれたにもかかわらず、帰国の決心が出来ずについには自殺してしまうという悲劇的な内容 でした。そこで描かれていたものは、苦悩する朝鮮国の人々のみならず、加害者である日本側の葛藤にも生々しいものがありました。

歴史を被害者の視点だけから見ると。加害者側の事情というものがややもすると誤解・曲解される傾向があると思います。 「反省・同情した加害者は須らく許すべきだ」などという短絡的な発想から申し上げているのではありません。そのような、いわば打算的発想に 固まっていたのでは、歴史の真実は見えて来ないでしょう。しかし逆に「加害者は一方的・絶対的に悪である」と決め付ける考え方も同様に正しい理解 の妨げになるのではないかと思います。

今回、「加藤清正の13歳捕虜」を拝見し、その番組の完成度の高さに感銘を受けました。が、時間的制約・資料不足を勘案する としても、朝鮮国側の苦悩だけでなく日本側の葛藤も描いてほしかったという気がします。日遥上人こと余大男が 本妙寺の住職として大成出来た背景には、彼自身の資質の高さと努力があったのは言うまでもありませんが、一方で彼を支える 暖かい人々の存在もあったのではないかと思います。それを日本の都合で無理に描くという次元ではなく、正しい歴史の理解のため、 そしてそれを踏まえた望ましい未来構築のために、真相を知りたいのです。今後の研究の進展に、ぜひとも期待したいと思います。

最後になりましたが、素晴らしい座談会を継続しておられる駐名古屋大韓民国総領事の柳洲烈様をはじめ、運営委員会の皆様に 心から経緯を表し、お礼とさせていただきます。その内容をまとめた本書が、日韓両国の輝かしい未来構築に貢献するものと信じ、 また願ってやみません。

BACK][NEXT