簓(ささら)について

 

唐人さんの所持品に簓(ささら)というものがあります。聞き慣れない言葉ですよね。 行列においても、ズルズル引きずるか杖のようについて歩くだけで、特に目立った役割もないように見えます。
いったい、何のためにそんなものを持って歩いているのか・・・少し探ってみました。

<大辞林によると・・・>  ささら 【簓】

(1) <田植え囃子(ばやし)や風流(ふりゆう)系の獅子舞などで使用する楽器。先を細く割ったささら竹と、 のこぎりの歯のような刻みをつけた棒のささら子とをこすりあわせて音を出す。すりざさら。→びんざさら
(2)細かく割った竹などを束ねたもの。鍋(なべ)を洗うたわしの用などとする。さわら。
(3)「びんざさら」の略。
(4)先端が細かく割れること。ささくれること。
(5)物をすりへらすことのたとえ。

と定義されています。

1.楽器としての簓(ささら)

富山の「こきりこ節」などに代表される楽器として、また各地の田楽などでいろいろな形の簓(ささら)が用いられます。 大きく、板を連ねた「びんざさら」のようなタイプと、棒ざさら(摺ざさら) と呼ばれるタイプにわかれます。

↑棒ざさら
竹を細かく切って束ねたもので、 これをノコギリ型の棒に擦り合わせて音を出します。

←びんざさらタイプ
短冊型のひのきの板を合わせて編んだもの。右手首、左手首を交互にスナップさせ、打ち鳴らします。

唐人踊りのささらは、外見上は明らかに棒ささらに近いもののようです。 しかし擦ったり打ち鳴らしたりすることはありません。

2.道具としてのササラ

中華鍋のお掃除には欠かせないのが「ササラ」です。  中華鍋は水洗いが基本。せっかく鍋に乗った油を落としてしまう中性洗剤は使いません。  手早くしつこい汚れを鍋からそぎ落とすササラは、そういう中華鍋の使用法にぴったりの清掃用具として、昔から使用されてきました。

このササラを応用したものが、北海道の路面電車などによく見られるササラ電車です。 車両の前後に取り付けた、竹のササラを利用した除雪装置で雪を掃き飛ばし、積雪が線路の障害にならないようにと 冬の線路を守っています。

 

3.シンボルとしてのササラ

このように、シンボルとしての役割を果たすササラもあり、唐人踊りのササラも 何がしかの意味がこめられたシンボルとして使われている可能性もあると思われます。

左は岩手県江刺の鹿踊りに見られるササラ。材質は竹で出来ており、非常に良くしなります。 長さはおよそ2メートルにもなり、雌鹿は他のササラよりひとまわり短くなっています。 本来ススキや稲穂を用いたそうで、その意味は秋の五穀豊穣祈願です。 また、もう一つの役割があり、今で言う「アンテナ」の役割を担っていたそうです。 すなわち、天高く伸びたササラを伝い天空の神の言葉をカシラに宿して、 それを踊りに表すという意味が込められているとのことです。

長野県小谷町・千国諏訪神社「ササラ祭り」では、ササラは男性のシンボルをかたどった棒を意味します。 棒を持った男が神社の境内に現れ、子宝に恵まれるように、女の人へササラをすり寄せて行きます。 時には追いかけ回したり、男の人にもすり寄ってきたりして、人々の笑いを誘います。(下)

ここで推測

唐人踊りのササラは、形の上では棒ササラに最も似ています。田楽など五穀豊穣を祈る祭礼における楽器として、 唐人踊りにも導入された可能性があると思います。それが何がしかの理由により、楽器として使われることなく アクセサリーとしてのみ残ることとなった・・・というわけです。
また、中国伝来の「掃き清める」道具を「道中の邪気払い」という意味合いで行列に取り入れた 可能性もあると思われます。その場合、朝鮮通信使を真似た行列に中国的要素を加味するための、 意図的な演出だったと考えることも出来るかも知れません。そして、「唐人踊り」という名称そのものが、 そのような意図によって名付けられたものとする考え方も成り立つことになります。

それとも・・・当時の朝鮮通信使行列自体が、ササラもしくはそれに類似したものを所持していたのでしょうか? 韓国語には「ササラ」という単語は存在しないようですので、その可能性は低いかも知れません。

結論は出ませんが、唐人踊りのルーツや歴史を探る上で、所持品の研究は有効な手がかりを与えてくれるように思います。


唐人さんの家