激しい鉦(かね)と太鼓の音。躍動する民族衣装。朝鮮の農楽を起源とする打楽器演奏サムルノリが、高月町雨森の集会所に響き渡る。かつて日本と朝鮮との外交に尽くした「芳洲さん」の古里。サッカーのワールドカップが日韓で共同開催される今年、この小さな町で、韓国から訪ねくる平和の使節を少女たちが歓迎のリズムで出迎える。
雨森地区は、江戸時代の儒学者で朝鮮外交に活躍した雨森芳洲の出身地だ。地元では、郷土の偉人を顕彰し、その功績を後世へ引き継ぐ活動が約20年前から続く。芳洲の教えを紹介するカルタを作り、街角にハングルの案内板を設け、青少年通信使を韓国へ派遣した。サムルノリもそうした活動の一環だ。
小中学生約15人でつくるグループ「すずらん」は3年前、大阪の祭り「四天王寺ワッソ」の出演者から手ほどきを受けて演奏を始めた。毎週末、韓国で買った民族衣装をまとい、太鼓のプクやチャンゴ、どらのチム、鉦のケンガリをたたきながら、輪になったり、横一列に並んだりする。迫力ある演奏に99年、ソウル市から訪れた中学生も驚いた。翌年には韓国で演奏した。
高月中学校1年の大橋友里さんは「リズムの中で動きながら演奏するのは楽しい。芳洲さんの古里からサムルノリを通して友好の輪を広げたい」と話す。
そんな願いを実現できる絶好の機会が8月にやってくる。W杯開催を記念し、韓日文化交流協会が7月から、江戸時代に朝鮮通信使がたどった漢城(ハン・ソン)(ソウル)から江戸(東京)までを日韓の学生ら約200人でたどる「2002平和の行進」を催すのだ。
朝鮮通信使は、県内では琵琶湖南岸を通り、野洲町−彦根市を結ぶ約41キロは今も「朝鮮人街道」と呼ばれる。高月町は街道から外れるが、芳洲の出身地として特別にコースに組み込まれた。8月17日ごろ町に到着する一行にサムルノリが披露される予定だ。
雨森まちづくり委員長の平井茂彦さん(56)は「21世紀は世界史的な町づくりが求められる。芳洲さんに光を当て、友好の町づくりを進めたい」と、少女たちの活躍に期待している。
(大村 治郎)
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湖国は古くから「交通の要衝」と呼ばれてきた。今年は中山道の宿駅制定から400年になる。様々な人や物が往来した道を通し、湖国の歴史と未来を見つめる。
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